天国までの百マイル/浅田次郎

天国までの百マイル (朝日文庫)

天国までの百マイル (朝日文庫)

設定からしてもう泣かせるのはわかってんだ…ずるいんだよ…とか思いながら泣かされてる自分…。
主人公安男は経営していた不動産会社が倒産、妻とは離婚し慰謝料を払い続けている。しかし安月給の中で慰謝料が払えず、水商売のマリ(小説の言葉を借りれば『醜女』『風船のような女』)のヒモのような生活を送っている。兄弟たちに電話をすればまた借金のお願いかと邪険に扱われる始末。そんな中母の見舞いに行くと、母が思いの他重い病気なことがわかって…という話。
とにかく登場人物が皆魅力的なのだ。片山は、クチは悪いが男気のあるいい人だし、藤本先生も、患者のために一生懸命尽くしてくれる情熱ある先生、栄子ももう関係ない義母の面倒を見に来てくれる子供思いの優しい人。マリは複雑な家庭環境に育ち、今までも付き合ってきた男に何度も捨てられて、安男にも本気で愛されてないことを知りながら、安男を愛し励ましお金を渡し、時には悪女を演じ…とにかく健気。
そしておかあちゃん。無償の愛ってこういうことを言うんだろうなと。自分を気にかけない子供たちを恨むこともなく、それでいいとまで言い、自分は死んでもいいからお腹減らせてる子供に食事をさせてあげようと思う母。
読んでて泣ける箇所はたくさんあります。素敵な台詞も多く、とにかく優しくてあったかい話。
死ぬまでに一度は読むべき。

「もし、鴨浦の曽我先生がやっぱり切れないとおっしゃったら、もう一度ここへ連れ帰ります。何としてでも」
「いや。万が一そう言われたら、僕が迎えに行く。必ず行きます。もう他の医者には見せない――でもね、城所さん、曽我先生は切るよ」