[本}子供たち怒る怒る怒る

子供たち怒る怒る怒る

子供たち怒る怒る怒る

※微妙なネタバレあり。
今回は短編です。



「大洪水の小さな家」
しょっぱなから佐藤友哉は大丈夫かと思わされる、相変わらずの壊れっぷり。洪水で床上浸水した町。屋根の上に上る兄弟。そこに妹がいないことに気付き、兄弟は激しく動揺する。兄弟にとって妹は自分の一部。そして兄、弟、妹で世界が『完結』する。そこには友人も両親も恋人も必要ない。三人でいることが全てで、それで完結している。それなのに妹がいない。妹がいなければ自分達は終わりなのに。…こんなとこがあらすじでしょうか。
終盤に行くに連れて『』が多用されていきますが、これは自分にとってのモノ、物質でしかないものを示しているのでしょう。だから最終的に『』の括りの中に→←とかも入ってきてしまう。それは彼が→彼自身だけで←完結していることを思い知ったから。
それにしても融合って!どんな状態なんだろうか。まだ近親相姦してくれたほうが意味が分かる。謎だ。
ううむ、イキナリ最初にこの話を持ってきてる時点でなんかすごさを感じます。あとこの人の妹萌えは大丈夫でしょうか。いろんな意味で。



「死体と、」
改行が一切なく、一気に読ませてくれるスピード感がたまらなく好きだ。
死んでしまった女の子の周りで巻き起こる物語。人から人へ、死体が移動してゆく。そこにそれぞれのドラマがあって、思いがある。
佐藤友哉の小説の中に自分のこれまでの人生を「僕の物語」とかいう場面を時々見かけるが、この話ではホントそれぞれの物語って感じ。人それぞれに小さな物語があって、それは日々交差してて、そしてこの動かない死体が一体登場することによってだけでも大きく動いていく。この小説では脇役の警察官も、それは警察官が「死体と、」の中では脇役なだけで、自分が主役の大きな物語があるのだという感じで…。
…何が言いたいかわからなくなってきた。要するに結構この話好きでした。
突然「人殺しなのに生きててごめんなさい」なんて入るから泣きそうになった。



「慾望」
突然自分のクラスの生徒たちがマシンガンを持って人殺しを始めた。女性教師は理由を考える。説得する。しかし彼らには望みも主張も何もないと言い出して…。あらすじとしてはこんなところ。
死体と、で哀しくさせられたあとなのにバイオレンス!こういう救いのない話も割と好きです。ラストでこうなるんだろうなという期待を綺麗に裏切ってくれました。
この小説には何もない。成長も、気持ちの変化も、物語の終結も。だがそこが面白い。普通は何かしらあるもんだ。
なんとなく物を選ぶように、なんとなく人を殺すこともあるんじゃないか。だとすればそこには「鬱屈した青少年の不満や主張」はない。だってなんとなくだから。だから物語は動かないし変化しない。何もない。いやはやこういうことをさらりと描ける佐藤友哉はかっこいい。
この小説はここで終わるけど、どうなっちゃうんだろうなあというのが一番気になる話。



「子供たち怒る怒る怒る」
なんかーもうーとりあえずーおええええええ。パンダぬいぐるみ5個…喉の辺りがごわごわします。食べたことないのに想像してごわごわできます。許してくださいユヤタン。話としてはこう、うまくまとまってる話ではなく、感想書くのは結構難しいんだが、いろんな意味で面白いと思った。
子供だから、一人で生きていけないし、逆らえないし、何もできないし、だから子供たちは怒る。怒って怒って怒る。
私だけでしょうけど、ちょっとこの小説見て千原兄弟のBAKKING!でのこうちゃんのコント思い出しました。大人の癖に!大人の癖に!っておにーちゃんが泣く場面があるんだ。



「生まれてきてくれてありがとう!」
これは結構短いし、タイトルから想像する物語とはかけなはれてるんだが、人間僅かな希望さえあれば頑張れるという話(笑)その僅かな希望がこの場合ちょっと変わったものなので笑いを誘うが、実際それで頑張ろう・生きようとできるわけだからすごいもんだ。



「リカちゃん人間」
それにしてもすごい唸るタイトル。深いし、絶妙。
リカちゃんというのがこの物語の主人公なんだが、いじめられ虐待されている。そんなときリカちゃんは自分は人形だと思い込む。人形のされてることと思い込んで逃避を計る。でもリカちゃんは人間。人形じゃなくて、立ち向かうことの出来る人間なんだ、みたいな。
展開は乙一の「カザリとヨーコ」にかなり似てるかなと思った。いじめられる→救世主現わる→救世主が助けてくれない→自分で頑張る→よっしゃー!しかし好きだ。こういう話は。物語を通して主人公が強くなるっていう基本的な展開がベタに好きだ。活動家には「お前見てたなら助けろよ」というツッコミをしたくてたまらないのだが。先生の「キミは失敬なのか?馬鹿の子なのか?」にもウケた。乙一のヨーコもそうだけど、リカちゃんが淡々としていることで作品全体がエグくならず、しかしながらその淡々さが哀しみを誘う。
前向きで希望があってこの中で一番好きな短編。


全体的にかなりクオリティが高く、佐藤友哉の思いがガスンと伝わってくる。


「先生」「私、その、悲しいです」
「リカちゃん、それは違う。悲しいっていうのはね、戦って戦って、そして完膚なきまでに敗北したときだけに使っていい言葉だ。使えない大人が死んだ程度で口にしちゃいけない」